国債とは、国が発行する債券のことです。
政府は、毎年の予算のうち税収入などで賄えない分の財源確保のため、国債を発行して資金を調達しています。
国債で資金を調達するためには、
- 国債を発行する
- 国債を売却する
- 満期が来たら償還する…
という一連の業務が必要です。
これらの国債にまつわるほとんどの業務は、政府ではなく日本銀行が担っています。
今回は、国債に関する業務のうち日本銀行が果たしている役割についてわかりやすく解説します。
国債に関する日銀の役割
国債は、投資家からお金を借り入れるために国が発行する債券です。国債が満期になると、元本と利子が投資家に償還されます。
国債の発行主体は政府ですが、日本銀行も国債に関して重要な業務や役割を担っています。
日銀が国債に関して果たす役割について説明します。
【その①】日銀の国債に関する事務
国債の発行主体は国ですが、国債の実際の事務を行うのは日本銀行です。
日本銀行法及び国債ニ関スル法律では、国債の事務を担うのは日本銀行であると明記されています。
- 発行に関する事務
- 決済に関する事務
- 国債元利金の支払いに関する事務
注意すべきことは、日銀が担うのはあくまで国債に関する事務であるという点です。
国債の発行額や発行目的など、国債の内容に関する決定は発行主体である政府の仕事です。
なお、日銀が行う国債に関する事務のほとんどは、日銀ネット国債系システムというオンラインシステムで行われており、日本銀行と市中金融機関との間の手続きをオンライン化しています。
発行に関する事務
1つ目は、国債の発行に関する事務です。
国債は法律に基づいて発行されます。したがって、政府は自由に国債を発行できず、国会の議決で発行が決定されます。
国債の発行方式は、
- 市中発行方式
- 個人向け発行方式
- 公的部門発行方式
の3種類あります。このうち、市中発行方式は、財務省が公表した発行予定額や表面利率をもとに、金融機関などの機関投資家によって行われる入札(=公募入札)で発行されます。
日本銀行は、この市中発行方式の公募入札に関する入札業務を担っています。
なお、国債の発行主体は政府なので、発行予定額や表面利率などの国債の中身に関する業務は、政府である財務省が行います。
- 入札の応募の受付
- 募入額の決定通知
- 払込金の受入れ など
具体的な発行の流れは次のとおりです。
- 国会で当該年度の国債発行総額が決定される
- 政府(財務省)が発行予定日などを公表
- 財務省が入札に関する必要事項(銘柄・表面利率・発行日・償還日等)を日銀に通知
- 日銀がその情報をもとに入札の応募の受付を実施
- 日銀が入札に参加する金融機関の応募価格等の申込結果を財務省に通知
- 財務省が募入の決定を行う
- 日銀が入札参加者に結果を通知
決済に関する事務
2つ目は、国債の決済に関する事務です。
国債は、満期になると元金が償還されますが、満期前の途中で債券市場で売買することも可能です。国債を購入したときよりも高い額面金額で売却できれば、利益を上げることができます。
債券市場で国債が売買されると、国債の権利が売主から買主に移転します。
日銀は、この移転処理(=決済処理)をオンライン上で行えるシステムを運営しており、このシステムを国債振替決済制度と言います。
このシステムができるまでは、紙媒体の国債を発行し直して権利移転をしていましたが、オンラインで完結することで、物理的な券面の移動が伴わないのでよりスムーズに取引を行えるようになりました。
元利金の支払いに関する事務
3つ目は、元利金の支払いに関する事務です。
日銀は、国債の元本や金利の支払い業務を行っています。
日銀の役割の1つが「政府の銀行」と呼ばれるように、政府のお金は日銀の口座で管理しています。国債を償還する際は、日銀の口座を通じて債権者に元利金が支払われます。
国債は満期を迎えると元本と金利が償還されるので、その支払い業務も日銀の重要な仕事です。
【その②】公開市場操作とは?
日銀は、市中銀行との国債の売買を通じて公開市場操作をしています。
日銀は、国から直接国債を買うこと(引き受けること)は法律上禁止されています(詳しくはこちら)。国から直接国債を購入できのは市場関係者に限定することで、国債の需給バランスを保ち、過度な発行を抑制しています(=市中消化の原則)。
金融機関は、国から国債を購入したのち、債券価格や市場動向に鑑みて債券市場で国債を売却できるので、日銀は債券市場で国債を売買します。
したがって、日銀が国債を買う際には、金融機関が国から購入した国債を債券市場で買っています。
日銀が国債を売買すると、市場の貨幣流通量が増減するので物価を調整することができます。この調整機能を、公開市場操作といいます。
つまり、日銀は、国債の売買という方法で市場の貨幣流通量を調節して物価の安定を図っています。
日本銀行の目的は、物価の安定と金融システムの安定ですが、国債を売買して物価を安定させることは日銀の最も重要な役割の1つです。
日銀の目的や役割について詳しく知りたい方は、こちらの記事で説明しているので参考にしてください。
参考記事 【解説】日本銀行の目的と役割とは?
【その③】日銀乗換とは?
日銀が国債に関して担っている役割として、日銀乗換があります。
つまり、日銀が保有する国債が償還期限を迎えると現金化する必要がありますが、現金で償還を受けずに、満期を迎える国債を借換債という国債にスイッチするということです。
そのような手法を取れる仕組みと必要性を説明します。
日銀乗換の仕組み
日銀乗換とは?
日銀乗換とは、償還期限がきた国債を借換債に借り換えることです。
- 普通国債の償還額の一部を借換える資金を調達するために発行される国債
借換債とは、満期を迎えた国債の償還財源を確保できないときに、元利金を償還するために発行される国債です。
つまり、日銀が所有する国債の元利金を償還するために借換債を発行し、その借換債を日銀が自分で引き受けるということです。
したがって、日銀が所有する国債は焼却され、借換債に代わるという仕組みになります。
この仕組みは法律ルールに抵触しないのでしょうか。法律上の整理を説明します。
法律上の整理
前提として、日銀は国から直接国債を引き受けることが法律で禁止されています。
第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
財政法(昭和22年法律第34号)
中央銀行である日銀が政府から直接国債を引き受けてしまうと、政府の財政節度が悪くなり、国債への依存度が強くなって市中への資金流通量が増え、悪いインフレーションが起こるおそれがあるためです。
このルールは、先進国では一般的なグローバルスタンダードな制度です。
一方、日銀乗換は借換債を引く受けているという点で、「国から直接国債を引き受けてはならない」というルールに抵触します。
しかし、但し書きには、特別の事由があって国会の議決で定まった額であれば引き受けが可能であるという例外規定があります。
まさに、日銀乗換はこの規定に基づいており、毎年の特別会計の予算総則という箇所に日銀乗換の限度額が規定されて、国会で議決されています。
日銀乗換のメリット
日銀乗換をする目的とメリットは次のとおりです。
1つ目は、市中発行額を減少できるという点です。
日銀が金融機関などから購入した国債を借換債に換えることで、先に所有していた国債を償却できるため、市中発行額を減少させることができます。
国債は、民間などの市場が購入するのが原則(=市中消化の原則)ですが、市場の資金にも限界があります。したがって、市中発行額を減少すれば、市場に資金が戻り、また国債を購入する余地ができます。
2つ目は、年度間の償還額を平準化できる点です。日銀乗換によって、日銀が所有する国債の償還額を調整できるので、政府が毎年償還する額を平準化できます。
償還額を平準化すれば、支出が極端に多くなって財政状況を悪化させることを回避できます。
【まとめ】日銀は国債と密接に関わっている
国債の発行主体は政府であり、発行を決めるのは国会ですが、実際に国債の発行や償還の業務を担っているのは日銀です。
また、日銀は国債を用いて、公開市場操作や日銀乗換など、わが国の市場や財政を適切に調整する機能を持ちます。
したがって、日銀の業務は国債に密接して関わっていると言えます。