病気やケガで休むことになった場合、どのような手当がもらえるのか知りたいですよね。
特に、労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金の違いについて知りたい方は多いのではないでしょうか。
今回は、
- 労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金の違い
- 休業補償と傷病手当金のどちらを活用した方がいいか
について説明したいと思います。
この記事を読めば、病気やケガで仕事を休む方が、労災保険と傷病手当金のどちらを選ぶ方がいいかがわかります。
休業補償と傷病手当金とは?
労災の休業補償と健保の傷病手当金の違いを表にまとました。
【労災】 休業補償 | 【健保】 傷病手当金 | |
---|---|---|
保障内容 | 業務上による病気・ケガ・障害・介護・死亡に対する保険給付 | 業務外の私的な病気やケガが原因による休職中の収入補償 |
対象者 | すべての労働者 ※公務員は対象外 | 健康保険組合の加入者 ※国民健康保険は対象外 |
保険者 | 政府 | 健康保険組合 |
申請先 | 職場or労働基準監督署 | 職場or健康保険組合 |
保険料 | 全額事業主負担 | 事業主と労働者の折半 |
給付額 (1日あたり) | 【基本分】 給付基礎日額×60% 【休業特別支援金】 給付基礎日額×20% | 標準報酬月額÷30×2/3 |
給付期間 | 無制限 ※病気が治るまで | 最長1年6か月 |
4つの 支給要件 | ①業務中・通勤途中を要因とする病気・怪我で療養の必要があること | ①業務外の病気・怪我で療養の必要があること |
②仕事ができないこと | ||
③給与の支払いがないこと | ||
④通算して3日間休んでいること | ④連続する3日間を含んで4日以上休んでいること |
休業補償と傷病手当金は、仕事を休んだときにお金をもらえる点では共通していますが、それ以外は全く異なります。
特に大きな違いは、原因となる疾病が、業務中のものか業務外のものかという点です。
労災保険は業務中の病気に対する保険給付であり、労働者と家族の保護が目的となっているため、傷病手当金よりも手厚い保障内容になっています。
労災保険の休業補償とは
労災保険とは、労働者が業務や通勤による病気やケガに罹患した際に労働者を保護するため、政府によって給付される保険のことです。
労災保険は、労働者の保護を目的としているので、補償が手厚いことが特徴です。
労災保険の休業補償とは、労災保険でカバーされている補償の1つです。
労災保険には、休業補償以外の給付もあるので、例えば病気やケガで療養する際には療養補償給付、症状の程度が重くて障害が残った場合には障害補償給付などの給付を受けられます。
健康保険の傷病手当金とは
傷病手当金は、自分が所属する健康保険組合によって保障されている健康保険の給付の1つです。
傷病手当金は、私的な病気での休職が対象なので申請のしやすさがメリットですが、保障内容は労災保険に比べると限定的です。
傷病手当金の詳しい内容を知りたい方は、参考記事【完全版】傷病手当金の申請方法についてを参考にしてください。
労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金の違い
休業補償と傷病手当金には5つの違いがあります。
給付を受けられる人
1つ目の違いは、給付の対象となる人です。
労災保険はすべての労働者が対象になるのに対して、健康保険の傷病手当金は健康保険組合に加入している人が対象です。
労災保険はすべての労働者が対象
労災保険はすべての労働者が対象です。
労災保険は、労働者を使用するすべての事業者が原則強制加入なので、すべての労働者に適用されます。
正社員・パートタイマー・アルバイト・派遣労働者・外国人労働者…など雇用形態や国籍に問わず、対象になります。
- 公務員(国家公務員災害補償法などの別の法律と仕組みが適用される)
- 個人経営の農林水産業の事業など
傷病手当金は健康保険組合の加入者が対象
一方、健康保険の傷病手当金は、健康保険組合に加入している労働者が対象です。
つまり、パートタイマーやアルバイトなど、企業の健康保険組合に加入していない場合には対象外となります。
また、国民健康保険は対象外なので個人事業主の方なども適用されないため注意が必要です。
給付対象の病気
2つ目の違いは、対象となる病気が業務中か業務外かという点です。
先にも述べましたが、労災保険は業務中の病気・傷病手当金は業務外の病気が対象になります。
労災保険は業務上の病気やケガに限定
労災保険で対象となるのは、業務上の病気やケガに限定されています。
業務上とは、業務に起因する業務災害か通勤途中で発生した通勤災害の2種類の場合です。
業務上の病気やケガかどうかは、2つの方法で判断されます。
- 業務遂行性と業務起因性によって判断する
- 業務遂行性…労働者が使用者の支配下にあったか
- 業務起因性…業務に起因して発生したか
- 業務上疾病(職業病)かどうか
特に、仕事中に病気が発症しなくても、いわゆる職業病などは業務外でも発症しますよね。
例えば、仕事の極度のストレスによって心臓に負担がかかって心筋梗塞が発症した場合、仕事中に心筋梗塞が起こるとは限りません。
その場合には、1の方法では判断できないので、2の業務上疾病かどうかで判断されます。
業務上疾病は、厚生労働省によって業務内容と病名がセットで具体的に定められています。
これらを満たした場合には、仕事中に発生していなくても業務上の病気やケガとして認められる場合があります。
特に、精神疾患は次のとおり業務上疾病として規定されています。
そして、具体的な認定基準は次のとおりです。
- 対象疾病であること
※ 国際疾病分類第5章「精神および行動の障害」に分類される精神疾患 - 発症前の概ね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発症したとは認められないこと
特に、適応障害やうつ病なども対象疾病なので、業務外に原因がなく業務による強いストレスが原因であると認められれば、業務上の病気として認定されます。
傷病手当金は私的な病気による休職も対象
傷病手当金は、私的な病気による休職も給付の対象です。
労災保険の休業補償は業務上の病気であることが認められる必要がありますが、傷病手当金ではその病気に罹患していることが証明されれば、その他手続的要件を満たせば基本的に申請は通ります。
したがって、健康保険組合に加入している方であれば、病気で会社を休職した際に幅広く使うことができるのがメリットです。
給付額
3つ目の違いは、給付額です。
給付額については、労災保険の休業補償の方が健康保険の傷病手当金よりも手厚いです。
また、労災保険の方が傷病手当金よりも給付期間が長いです。
労災保険は給付額が手厚くて無期限
労災保険の休業補償の給付額は、基本分と休業特別支援金の2種類が支給され、支給期限はありません
病気やケガが治るまで無期限に支給されます。
休業補償の1日当たりの給付額は次のとおりです。
給付基礎日額とは、直近3か月間の平均賃金のことです。
- 給付基礎日額=直近3か月間の賃金総額÷暦日数
賃金総額には、基本的に賞与や通勤手当は含みません。
傷病手当金の給付内容は労災保険に比べて限定的
傷病手当金は、業務外の病気が対象なので申請しやすい一方で、給付内容は労災保険に比べて限定的です。
傷病手当金の1日当たりの給付額は次のとおりです。
特別支給金などはないので、労災保険よりも給付額は少なくなります。
また、給付期間は1年6か月と制限があるので、この期間を過ぎると打ち切られるのがポイントです。
待期期間の考え方
4つ目は、支給要件にある待期期間の考え方の違いです。
労災保険も傷病手当金もどちらも、支給には3日間の待期期間を経る必要があります。
しかし、労災保険と傷病手当金では、この待期期間の考え方が次の点で異なります。
労災保険の場合は、3日間の待期期間の間に出勤しても問題ないですが、傷病手当金の場合には3日の間に1日でも出勤した場合には適用外になります。
つまり、傷病手当金の場合には、連続して4日間休んで初めてその4日目から支給されるのに対して、労災保険はどのような形でも3日間を休みさえすれば、次の4日目の休みから給付が開始されるということです。
また、待期期間中の給付についても、労災保険の場合には休業補償が支給されますが、傷病手当金は手当が支給されないという違いがあります。
給付や手当の申請先
5つ目の違いは、給付や手当の申請先が異なるという点です。
- 労災保険…職場又は管轄の労働基準監督署
- 傷病手当金…職場又は健康保険組合
労災保険と健康保険は運営している組織(保険者)が異なるため、給付や手当の申請先が異なります。
いずれの給付も職場を通して申請することが多いですが、保険者に直接提出する場合には注意しましょう。
休業補償と傷病手当金の選び方と注意点
労災保険の休業補償か健康保険の傷病手当金かのどちらを申請するか迷った際には、次の点に注目して申請することがおすすめです。
業務上の病気かどうか
労災保険は業務上の病気、傷病手当金は業務外の病気にしか支給されません。
したがって、まずは、自分の病気やけがが業務中のものか業務外のものかによってどちらの保険で申請するかを決めます。
休業補償と傷病手当金を両方申請する
しかし、特に精神疾患や脳卒中などの怪我以外の病気は、業務上か業務外の病気なのか線引きが難しいのが実際のところです。
業務上なのか業務外なのか迷った場合には、両方の保険に申請を出すのも1つの方法です。
労災保険と傷病手当金は、審査期間や通りやすさなどに違いがあります。
特に休職中は、給与の支払いがなくてお金の心配もあると思うので、早めに給付を受けたい方は、休業補償と合わせて傷病手当金も申請することをおすすめします。
そうすれば、労災の申請中に傷病手当金を受け取ることができるので安心です。
ただし、次の項目でも述べますが、労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金は両方同時にもらうことができないので、業務上の病気として認められて休業補償が支給された場合には、すでに受け取った傷病手当金は全額返金する必要があります。
休業補償と傷病手当金は一緒にもらえない
休業補償と傷病手当金は同時に併給されません。
同じ病気で休業補償と傷病手当金の両方をもらえないことはもちろんのこと、業務外の病気と業務中の病気の2種類の病気にかかったとしても、2つの給付を同時にもらうことはできませんので注意してください。