日本銀行の3つの役割とは何か?
と聞かれて、いざ説明しようとすると、なかなか難しいですよね。
小学校や中学校の社会の授業で学習したはずですが、なんだかふんわりとしていてよくわからず、とりあえず役割を3つ覚えてテストに臨んだという人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、日銀の3つの役割をしっかりと理解できるように、日銀の設立目的と合わせて説明していこうと思います。
そもそも、役割というのは、何かの目的を達成するために担っている手段です。
日銀の3つの役割も同じことです。
日銀もいくつかの目的を達成するために3つの役割を担っているため、目的を理解せずに役割を理解することはできません。
つまり、日銀が何を達成しようとして設立されているか(=目的)を理解すれば、そのためにどういう手段(=役割)を取っているかが自然と見えてきます。
したがって、今回は、日銀の2つの目的と合わせて3つの役割を見ていきたいと思います。
日本銀行の特徴
日本銀行の目的や役割を理解するにあたり、日本銀行の重要な性質を押さえる必要があります。
それは、日本銀行は特殊法人であるという点です。
特殊法人は、特別な法律に基づいて設立されるという特徴があります。
- 日本銀行は、日本銀行法に基づいて設立されており、その目的や役割も日本銀行法にすべて規定されている
日本銀行と民間銀行の違いを詳しく知りたい方は、参考記事【わかりやすい】日本銀行と民間銀行の違いの記事を参考にしてください。
日本銀行の2つの目的
日本銀行が設立されている目的は2つあります。
物価の安定
日本銀行の1つ目の目的は、物価を安定させることです。
物価とは、わたしたちが購入する財やサービスの総称です。
物価の変動が極端に大きいと、経済の先行きの予測が不透明になり、消費や投資といった経済活動が困難になります。
社会が安心して経済活動ができるよう、物価を安定させることが日本銀行の1つ目の目的です。
金融システムの安定
日本銀行の2つ目の目的は、金融システムを安定させることです。
金融システムとは、お金の受払や貸借を行うしくみの総称です。
「お金のやりとり」は経済活動の根幹なので、金融システムが不安定になると、経済活動に支障を来してしまいます。
社会が安心してお金のやりとりを円滑にできるよう、金融システムを安定させることが日本銀行の2つ目の目的です。
(目的)
第一条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。2 日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。
(通貨及び金融の調節の理念)
(参照)日本銀行法(平成9年法律第89号)
第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。
日本銀行の3つの役割
日本銀行は、物価の安定と金融システムの安定という2つの目的を果たすために、3つの役割を担っています。
発券銀行
日本銀行の1つ目の役割は、発券銀行という役割です。
つまり、日本銀行は、わが国において唯一、銀行券(いわゆる「お金」)を発行できます。
あらゆる銀行が勝手にお金を発券してしまうと、市中に出回るお金の量が増えてお金の価値が下がるため、インフレーションになり物価が上昇してしまいます。
逆に、誰もお金を発券しなくなり、紙幣が破れたり捨てられたりして市中に出回るお金の量が減るとお金の価値が上がるため、デフレーションになり物価が下落してしまいます。
これでは物価の安定が図れないので、日本銀行が独占してお金を発券しているのです。
日本銀行は、市中におけるお金の供給を安定確保して、物価の安定を図っています。
銀行の銀行
日本銀行の2つ目の役割は、銀行の銀行という役割です。
各金融機関は、日本銀行に当座預金口座を持っています。
これが、日本銀行が銀行の銀行と言われる由来です。
日本銀行は、この口座を通じて物価の安定や金融システムの安定を目指しています。
具体的な方法は以下のとおりです。
金融機関からの国債等の売買
日本銀行は、この当座預金口座で、金融機関が保有する国債を売買することで、金融機関へのお金の流通量を調整します。
例えば、日本銀行が金融機関から国債等を買い入れると、売買代金が金融機関に渡るので、金融機関が保有する資金が増えます。
金融機関は、その資金をもとに企業等に貸し出しを行うので、市中に出回るお金の量が増えるため、お金の価値が下がり、物価の上昇が見込めます。
反対に、日本銀行が金融機関に国債等を売ると、金融機関は売買代金を日本銀行に渡すことになるので、金融機関が保有する資金は減少します。
金融機関は、企業への貸し出しを控えるようになるので、市中に出回るお金の量が減るため、お金の価値があがり、物価の減少が見込めます。
このように、日本銀行は、当座預金口座通じて金融機関との間で国債等の売買をすることで、物価の安定を図っています。
金融機関同士の資金決済を仲介
金融機関の間で行われている様々な取引の多くは、日本銀行の当座預金口座を介して行われています。
例えば、わたしたちがA銀行の口座からB銀行の口座に1万円の振り込みをした場合には、A銀行からB銀行に直接1万円が移動しているわけではありません。
この取引は、日本銀行にあるA銀行とB銀行の当座預金口座間で1万円が振替えられるという仕組みになっています。
日本中で膨大な資金決済が行われるなかで、取引が混乱なく円滑に行われるために、日本銀行の当座預金口座の中で一括して管理されています。
このように日本銀行が資金決済を仲介することによって、金融システムの安定が図られています。
政府の銀行
日本銀行の3つ目の役割は、政府の銀行という役割です。
日本銀行は、政府の資金を管理する役割を担っています。
具体的には、
- 年金・公共事業費の支払い、国税・社会保険料・交通反則金等の受け入れ
- 国債に関する事務(国債の発行や元利金の支払い等)
- 外国為替介入事務(為替の急激な変動に対して介入すること)
といった業務です。
ここで重要なのは、国債に関する事務は、日本銀行が政府から国債を買い付けることは含まれていないという点です。事務とは、あくまで国債に関する手続き面の業務のみを指します。
日本銀行の国債に関する業務については、参考記事【徹底解説】国債の発行のしくみと日本銀行の役割の記事で紹介しています。
財政法により、日本銀行が銀行券を発行して国債を国から直接買い受けることは禁止されています。
日本銀行が政府から国債を直接買い受けられるようになってしまうと、政府が予算確保のために日本銀行に大量の国債の買い付けを強いて、極端なインフレーションを引き起こす恐れがあるからです。
政府から国債を買い付けないという点で、物価の安定を図っていると言えます。
(目的)
第一条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。(通常業務)
第三十三条 日本銀行は、第一条の目的を達成するため、次に掲げる業務を行うことができる。
一・二 (略)
三 …(略)…国債その他の債券の売買
四~八(略)(資金決済の円滑に資するための業務)
(参照)日本銀行法(平成9年法律第89号)
第三十九条 日本銀行は、…(略)…金融機関の間における資金決済の円滑に資すると認められる業務を行うことができる。
終わりに
日本銀行は、私たちの生活にあまりなじみがありませんが、私たちが暮らす社会経済の安定には欠かせない役割を担っていることがわかります。
また、日本銀行の目的から理解していくと、意外とスムーズに理解が進んだのではないでしょうか。
余談ですが、日本銀行法の第一条に日本銀行の設立目的が規定されていますが、その順番に注目してみてください。
- 通貨及び金融の調節(物価の安定)…第1項
- 銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保(金融システムの安定)…第2項
の順に規定されています。
つまり、物価の安定が先に規定されているのです。
日本銀行の最重要目的は、物価の安定にあることが示されています。
物価の安定は、私たちの暮らしと社会経済活動の根幹であることから、1つ目に記載されているのかもしれません。
日本銀行総裁について知りたい方は、参考記事【徹底解説】日銀総裁の人事と役割の記事を参考にしてください。